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大阪家庭裁判所 昭和34年(家)2805号 審判

国籍 大韓民国 住所 大阪市

申立人 金啓正(仮名)

本籍 大阪市 住所 大阪市

相手方 田所とみ(仮名)

右に同じ

事件本人 田所孝夫(仮名)

右に同じ

事件本人 田所純子(仮名)

主文

本件申立を却下する。

理由

申立代理人は「事件本人両名の親権者を父たる申立人に指定する」旨の審判を求め、その申立理由の要旨は「事件本人両名はいずれも申立人と相手方とが内縁関係継続中の昭和二三年一〇月○○日、昭和二五年一〇月○日に各出生した非嫡出子で、母たる相手方の戸籍に入籍されている未成年者であつて、双方及び事件本人らは昭和三○年まで円満な生活を続けていたところ、同年夏頃に相手方は事件本人らを連れて出奔し以後現在まで相手方が事件本人らの監護養育に当つている模様である。ところで、申立人は事件本人らの父として去る昭和三一年二月○○日事件本人らを認知し、母たる相手方が将来も事件本人を養育し得る能力に乏しいのにひきかえ、申立人は一応生活も安定しており事件本人を膝下で養育したいと思い、事件本人らの利益のためこの際母たる相手方に代つて申立人が事件本人らの親権者になりたいと考えるが、上記事情で相手方とその協議が調わないので民法第八一九条第四項第五項に則り本申立に及んだ。」というにある。

よつて審按すると、本件記録添付の相手方及び事件本人らの戸籍謄本と当裁判所の調査結果によれば、事件本人田所孝夫は昭和二三年一〇月○○日生、事件本人田所純子は、昭和二五年一〇月○日生、いずれも父申立人、母相手方間の非嫡出子であること、昭和三一年二月○○日朝鮮に本籍を有する申立人が事件本人らを認知したこと、がそれぞれ認められる。

ところで、昭和二七年四月二八日午後一〇時三〇分「日本国との平和条約」発効(昭和二七年四月二八日付内閣総理大臣名義内閣告示第一号参照)に伴い、朝鮮は日本国の領土から分離独立し、従つて朝鮮人は内地在住者を含めすべて日本国籍を喪失したものであるところ(昭和二七年四月一九日民事甲第四三八号法務省民事局長通達参照)、本件認知は朝鮮に本籍を有し大韓民国人たる申立人が平和条約発効後たる昭和三一年二月○○日になしたものであるから、日本人女たる相手方の非嫡出子事件本人らと申立人との親子間の法律関係については現行日本民法の適用なく、法例第二〇条に基き父たる申立人の本国法すなわち大韓民国国籍法第二条第二号、第四条第一号、朝鮮民事令第一条第一号、第一一条第一項、旧日本民法第八七七条第一項の適用を受くべきものと解するを相当とし、これによれば事件本人らは上記認知により父の国籍を取得しその親権者は父たる申立人であると解せられる(昭和二八年一一月二八日民事甲第二二三〇号法務省民事局長回答参照)。

ただ、本件のように日本人女の非嫡出子が朝鮮に本籍を有する男に認知された場合も、子は除籍されず日本戸籍法の適用を受け、日本人父子間の認知の場合と同様、単に被認知者たる子の身分事項欄に認知の記載をすると同時に父母欄にも父の氏名を記載するに止める取扱がなされているに過ぎないものである(昭和二五年一二月六日民事甲第三〇六九号法務省民事局長通達参照)。

よつて、本件は既に昭和三一年二月○○日以来事件本人らの親権者たる申立人が更に親権者たることの指定を求めるものであるから失当として却下すべく、主文のとおり審判する。

(家事審判官 原田直郎)

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